日本語には、もともと二重母音というものがないそうで、日本語化したカタカナ表記つまりカタカナ語においても、/oʊ/の音を持つ単語は、オープン、オーバー、ゴールド、ホープ、ストローク、トータル などというように、/ɔː/をカナ表記したような表記法になるのが通常です。
英語の二重母音は、他にも/eɪ//ɔɪ//aɪ//aʊ/がありますが、/eɪ/がエーになる傾向がある(ケース、グレード など)ほかは、チョイス、ファイブ、ハウス のように、比較的に素直な対応になっています。ちなみに、英語に/eː/という発音はないので、エー系のカタカナ語は、ほぼシステマティックに/eɪ/にすれば、元の母音になるといえそうです(英語の発音としては/æ/がエーに聞こえるなどは考えられますが、上はカタカナ語の話です)。
ここでは、英単語における/oʊ/と/ɔː/が、ともにオーとして認知されたときに類音化する例を挙げてみたいと思います。またあわせて、(広義の)オー系の音が、オー(/ɔː/)なのか、オウ(/oʊ/)なのかについて、綴りとの対応(フォニックス的考察を含む)についても気づいたことを述べたいと思います。
同じ綴り字のパターンでも、(広義の)オー系以外の音(/ɑː//ʌ//uː/など)についてはここでは問題にしません。オー系以外の発音の態様については、こちらの記事「英語の母音と綴り字(27) 一覧表」などをご参照ください。
WSDでは、カナ表記上、/oʊ/をオウ系に、/ɔː/をオー系に区別して表記しています。WSDにおける検索用カナの表記については、こちら「WSDの詳細」をご覧ください。
ここでは、/oʊ/を持つ単語について、WSDに一時的にオー系の見出しを追加してみたときに、カナ表記に重なりがあったものを拾い出しています。目視チェックであり、また選別もしていますので、網羅的リストではありません。
また、カナ表記の同一性から、l と r、b と v、s と th などに違いのあるものも合わせて出てくることがあります。
以前の記事でも述べましたが、英音においては、/ɔːr/は/ɔː/なので、リストはそれも含みます。
以下のリストは、WSDのカナ表記順です。
なお、識別のため、語義をごく簡単に載せています。
aboard /əbɔ́ːrd/ 乗って
abode /əbóʊd/ 住居/→abide
綴りoaは、一部の例外(broad, abroadで/ɔː/)を除き全て/oʊ/なのですが、oarではむしろ/ɔːr/が通常です。
語尾にサイレントのeがきて/oʊ/となる単語は多数あります。
war /wɔːr/ 戦争
wore /wɔːr/ →wear
woe /woʊ/ 悲哀
綴りarは、art, largeなど、アー系の音も普通にあるのですが、オーかオウかで言えば、/ɔːr/といえます。
綴りoeは、オーかオウかで言えば、/oʊ/です(フォニックス的にはサイレントのeの特別な形ともいえます)。
walk /wɔːk/ 歩く
woke /woʊk/ →wake
綴りaひとつの場合、オーかオウかで言えば、/ɔː/です。
awe /ɔː/ 畏敬
O, oh /oʊ/ おお!
owe /oʊ/ 負っている
oar /ɔːr/ 櫂
or /弱ər; 強ɔːr/ ~か~
ore /ɔːr/ 鉱石
綴りaw, awe は、オーかオウかで言えば、/ɔː/です。
綴りow, owe は、オーかオウかで言えば、/oʊ/です。
odor(odour) /óʊdər/ におい
order /ɔ́ːrdər/ 順序
oat /oʊt/ オート麦
ought /ɔːt/ すべきである
綴りoaは、一部の例外(broad, abroadで/ɔː/)を除き/oʊ/です。
綴りouは、オーかオウかで言えば/oʊ/が多いのですが、oughtの形では/ɔːt/となります(例外はdrought /draʊt/)。
quart /kwɔːrt/ クォート(容量)
quote /kwoʊt/ 引用する
claw /klɔː/ かぎづめ
crow /kroʊ/ カラス
綴りawは、オーかオウかで言えば、/ɔː/です。
綴りowは、オーかオウかで言えば、/oʊ/です。
ちなみに、au, ouの場合も一般にそうなのですが、例外もあります。
close /kloʊs/ 接近した
cloth /klɔːθ|klɔθ/ 布
cross /krɔːθ|krɔθ/ 十字架
綴りoは、サイレントのeではない場合、オーもオウもあります。/oʊ/と/ɔː|ɔ/の両方の可能性があります。forum, storyのように、後にrと母音が続く形で、/ɔː/となるものもあります。
またここでは取り上げませんがもちろん/ɑ|ɔ/系の単語も多いです。
clause /klɔːz/ 条項
close /kloʊz/ 閉じる
clothe /kloʊð/ 服を着せる
clothes /kloʊz, kloʊðz/ 衣類
gloss /glɑs, glɔːs|glɔs/ 光沢/注釈
gross /groʊs/ 総計の
growth /groʊθ/ 成長
綴りoについて、同じrossでも、crossでは/ɔː|ɔ/、grossでは/oʊ/です。英語の発音は結構複雑なのです。
coast /koʊst/ 海岸
cost /kɔːst|kɔst/ 費用
(ghost) /goʊst/ 幽霊
綴りoaは定石通り/oʊ/ですが、綴りoは単純ではないという例です。
caught /kɔːt/ →catch
coat /koʊt/ 上着
court /kɔːrt/ 法廷
call /kɔːl/ 呼ぶ
coal /koʊl/ 石炭
gall /gɔːl/ 胆汁/すり傷
goal /goʊl/ 目標
shawl /ʃɔːl/ 肩掛け
shoal /ʃoʊl/ 浅瀬/群れ
scrawl /skrɔːl/ 殴り書きする
scroll /skroʊl/ 巻物
store /stɔːr/ 店
stow /stoʊ/ しまい込む
stall /stɔːl/ 失速/時間かせぎする
stole /stoʊl/ →steal/肩掛け
snore /snɔːr/ いびきをかく
snow /snoʊ/ 雪
saw /sɔː/ のこぎり/→see
sew /soʊ/ 縫う
so /soʊ/ そのように
sow /soʊ/ まく
soar /sɔːr/ 舞い上がる
sore /sɔːr/ 痛い
thaw /θɔː/ 解凍する
綴りewは、オーかオウかで言えば、/oʊ/です。
sawn /sɔːn/ →saw(のこぎりで切る)
sewn /soʊn/ →sew
sown /soʊn/ →sow
thorn /θɔːrn/ とげ
chalk /tʃɔːk/ チョーク
choke /tʃoʊk/ 窒息させる
toe /toʊ/ つま先
tow /toʊ/ 牽引する
tore /tɔːr/ →tear(裂く)
tour /tʊər|tʊə, tɔː/ 旅行
door /dɔːr/ ドア
dough /doʊ/ パン生地
綴りoughは、enough /ɪnʌ́f/, cough /kɔːf|kɔf/, through /θruː/, though /ðoʊ/, bough /baʊ/など、いろいろな発音があります。オーかオウかで言えば、/oʊ/も/ɔː|ɔ/もあります。
ただし後にtがついて、oughtとなると、上述のように/ɔːt/の形(例外はdrought /draʊt/)になります。
taught /tɔːt/ →teach
taut /tɔːt/ ぴんと張った
tort /tɔːrt/ 不法行為
tote /toʊt/ 運ぶ/合計する
tall /tɔːl/ 背の高い
toll /toʊl/ 鐘の音/通行料
dole /doʊl/ 施し物
doll /dɑl, dɔːl|dɔl/ 人形
綴りollも、単純ではありませんが、doll, atoll以外は/oʊ/の形になるようです。
drawn /drɔːn/ →draw
drone /droʊn/ ドローン
以上が、カナ表記でア~トのもの(からの抜粋)です。
ノ以降のものは、次回に続きます。
(注)綴りと発音についての記述は、学問的に厳密なものではありません。